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日本茶インストラクター Nishikien owner's weblog 


日本茶インストラクターの店主によるお茶や茶器などにまつわる事柄。

「昔は・・・」の言葉を私の知らぬ未来まで先送りに。

現役の多くの茶業関係者はこれまであった大きな市場に対して、大量生産と効率化の積み木を重ねた天辺でお茶と関わる事になっています。
その視点から茶価の低迷に対応するのであれば、更に効率化を進める事です。人件費を出来る限り減らし、オートメーション化をさらに進めて製茶に掛かる時間全体を短縮していく。有効な手段のひとつです。
資本力の戦いとなり、結果として茶価は更に下がるかも知れません。茶の工業製品化を進めていくのも機械化の技術に秀でた日本の姿のひとつなのでしょう。より換金性が高い生産を目指して。道理であり正しい考え方です。

ただ、これでは今、私達の目の前にある日本茶ならではの楽しさや美味しさは減ずる方向になっていきます。
では、どうするのかといえば実に古臭い対面販売と、残したいお茶に対しての知識を伝えていく事。それに合致するお茶を作る生産家や関係者と一緒に物づくりをしていく。「替わる物がない価値」これでなければと思える品である事。それこそが生命線です。

以前のように「勝手に売れる茶」ではなく「売るお茶」とする。製茶の歴史を紐解き、日本茶ならではの面白さを自らが学び伝える。
遠回りに見えるかも知れませんがこれ以外には無いと考えています。これはとても大変な事で物理的にも精神的にも体力が必要です。
日本茶を取り巻く現状は光明と暗闇がせめぎ合っています。関わる者から正直に言えば、余り時間の猶予はありません。じわじわとではなくサラサラと崩れるように失われていくように思えます。

気が付けば「昔はこんなお茶があったんだけどね。」と語っているようになりそうです。
私は臆病者でその時に何もせずにいた自分に平気でいられる程、強い心の持ち合わせがありません。沢山の失敗をし、多くの人に面倒、迷惑をかけながらもまだまだ道半ばにも届かず、恥ずかしい限りです。

それでも、今、出来る事をしてその結果、「昔は・・・」の言葉を私の知らぬ未来まで先送りにしたい。
それが私の望んで止まぬ事です。

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お客さまではなく、先ずはテーブルのこちら側から。

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「急須の無い家庭が増えた」や「茶葉を使わなくなった。」といった嘆き節のような言葉を私の業界では耳にします。ペットボトルばかりでなんて話も合わせて。

お客さまや世の流れみたいに聞こえますが、それは間違いです。この状況は嘆いている人が作ったのですね。資格も必要無く、誰でも始められて「儲かる商い」であった茶販売。茶がどのように出来たかなどの知識を必要とせず、好き嫌いといった売る側の個人の嗜好で商売が成り立つのは供給よりも需要が上回っている時だけです。その延長に今があります。

私が始めた20年近く前は、こんな儲からなくなった時になぜお茶屋なんてと言われたものでした。でも、始めるにはいい頃だったと思っています。売れない時ほど人は「何故」を考えるものです。

歴史を振り返ると茶販売の大きな流れは正直、褒められたものではありませんでした。エポックとなるような素晴らしい製品づくりとそれに便乗する模造品や粗悪茶の歴史です。それは今でも見え隠れします。

急須でお茶をと口にする人達が使う道具のお粗末さ。いれる道具に関しての不勉強はお客さまからも見えていることでしょう。

茶消費の大きな部分は日常茶であり、番茶でした。安価で常に傍らにあるお茶。現在はその地位はペットボトルが得ています。ペットボトルが安価なのかと言われるかも知れませんが、お茶をいれる手間までも値段にするのであれば安いのです。

品種茶の用意も単品で多種類が可能になり、精度の高い急須も手ごろな値段で買える時代になりました。お茶をいれることを楽しめる時代の到来。茶を扱う側の者がそれを活かさず、茶器に気を配らなくて誰がするのでしょう。

粗末な道具で「急須を使って」や「茶葉を使って」などと言うのは無理があります。少なくとも茶を生業とするのであれば、もうそろそろ手元にある急須について考えてみて欲しいものです。お客さまではなく、先ずはテーブルのこちら側から。

お茶も急須も手遅れになる前に。もう手遅れかも知れませんけれど、このまま諦めるのはあまりに勿体ない物ばかりです。

日々の常の中で

日本茶の輸出は文化と共に。
似たようなフレーズをあちらこちらで耳にします。

確かにそうかも知れないけれど、先ずは国内で自らが「まあ、お茶でも飲もう」と一杯の茶を呈せる事からです。
日々の常の中で出来ている事が文化であり、それが出来ずに海外へなんて虚像に過ぎません。

こんな当たり前の事もわからずにクールジャパンも何も有りはしないのです。

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暑いときには暑い時に、寒いときには寒い時に。

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拝見中の様子です。

肌寒さを感じる季節となり、「今だから更に美味しいお茶」がある事を確認しています。20年近く茶に関わっていれば感覚としてわかってはいるのですが拝見をすると実感します。

時の流れと共に、季節の移り変わりと共に、お茶と人の距離が近づく時、「このお茶が美味しいね。」の言葉が生まれます。

暑いときには暑い時に、寒いときには寒い時にそれはちゃんとあります。近年は個性ある品種茶のおかげでその幅は広がりました。お茶の旬は一年を通じてあるようになったのでしょう。いい時代です。

静岡の山間地生産茶、玉川と大川の茶で作る静岡熟成茶「初春之茶」が近日中に静岡伊勢丹などの店頭に展開の予定です。

何卒よろしくお願いいたします。

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作る者、売る者。

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常滑へ朝早く出て、夜中に戻る出張の二日間。帰路に某有料の大型物産展と巨大テナント店に立ち寄り、伝統工芸品が沢山並ぶ物産展にはちょっとしたランチ代程度を支払って入場しました。

商品やブースの様子を眺めなら会場内を歩くうちになんとも切なくなってしまいました。
百貨店に並ぶ製品と大差は無く、わざわざここに足を運ぶ意味が見えないのと品物につく値段の理由に説明がつかない。若手、年配ともに作り手が物売りをしながら疲れた表情を見せる姿も。

余程裕福でも無い限り、面白いだけで支払える金額などせいぜい4ケタです。5ケタの支払いには理由がいるものです。

六次産業だ、作り手が説明をして売るなどとコンサルタントが言葉を発するけれど、しなくていけないのは商品知識とスキルを持った売り手の育成だとの思いが確実なものになりました。

作り手は作るのが仕事であってそれを安心して続けられるのが幸せであり、手を掛けた時間が品物の品質に繋がっていきます。作り手に物売りをさせるなどというのは間違いなのです。

加飾の何も無いシンプルな無地の常滑急須

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加飾の何も無いシンプルな無地の常滑急須。私が好きな急須です。そして、一番悩んでいる製品のひとつでもあります。

茶業に関わりながら私が生まれる前に作られた品から現在の品など、業としての縁が無い方々よりは多い点数を見て、作り手との交流もあるように思います。その中で感じるのは原料となる土の質が悪くなっている事。これは単純に販売価格を上げればカバーが出来るような問題ではありません。産業としての疲弊がその根にある事象となっています。

数年前より、近い将来において出来なくなる、又は、この状況を理解してお買い上げにくださる方以外には販売をしない製品になるのだろうと思っています。その際は何卒よろしくお願いいたします。

第69回全国お茶まつり静岡大会が終わりました。お茶を知るセミナー「お茶と器の楽しい関係」と茶学術研究会設立30周年公開シンポジウム

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晩秋の2日間、第69回全国お茶まつり静岡大会が終わりました。ご縁から、お茶を知るセミナー「お茶と器の楽しい関係」を担当し、及ばなさを認識しつつも、自分にしか出来ない事している気持ちは揺らぐことなく務めました。それもこれまで力添えをくださった方々のおかげです。目に見える形の恩返しのひとつがセミナーでもあります。

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1903年に作られた天下一製法のお茶や、輸出茶見本などが2階ロビーに展示されているので第1回目はツアーっぽい雰囲気で参加者と展示物を見るスタイル。2回目は作成した資料を中心に比較的オーソドックスなスタイルとしました。

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各回ともに焼物の基礎知識や日本茶の輸出、お茶の拝見に各テーブルにおける参加者の手によるグループ内の呈茶など60分でコンパクトにまとめた内容です。

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お茶と器を基幹にしながら、「わかりやすい通り一遍ではなく、混沌とした中で参加者のそれぞれが何かを拾えるように。」が私の中でのテーマでした。

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2日目は茶学術研究会設立30周年公開シンポジウム。演者がぞれぞれ自らの分野にて茶に関しての事柄を発表なさるのを拝聴しました。講演が進むうちに、面白いくらいにベクトルが異なる内容になっているのに気づきます。茶の効能についてを伝える演者がいたかと思えば、効能や香味などではなく文化を伝える事が重要としたり、様々な茶種による香味の違いや機能性についてを話したり。そして、近現代の歴史と先人の足跡には背筋が伸びました。

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異なるベクトル。これは別会場で開催されていた多様な茶が並ぶ販売会とも符合します。
如何にもこれが「茶」なのでしょう。茶の面白くも厄介なのはどのように作っても取りあえず飲めてしまう懐の深さです。人に対してこんなにも過保護な植物、そして製品は他には無いのではとさえ思えます。

会期中、友人と話す中で、海外に向けて日本茶の文化をとするのであれば、先ず大事なのは国内だろうとの会話になりました。
売らんが為の言葉や赤子の手をひねるように作られた製品でごまかしながら金銭を得たり、ともすれば、それに気がつかないままテーブルのこちら側にいる者も。その現状を変えること。

海外に向けて日本茶の文化を伝えるのであれば足元を見ることです。業者以外の人が機嫌よく日本茶をいれ、茶器をつかい、茶を介して楽しそうにしている日常が日本国内にあってこそ海外への文化発信です。

皆が一杯の茶を自然にいれられないのに海外へ文化もありません。茶道が文化ではなく、日本ならではの茶を楽しむ姿、そして、茶についてを知っている事、自然に話せる事が文化。常であること。常となっていること。それこそが意識の背骨になっていくのでしょう。

お茶でなければ

11月14日より開催される全国お茶まつりの特集記事です。地元紙故にお茶の記事は多いけれど、大きく紙面が割かれるのは初取引と八十八夜の頃。

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つらつらと読みながら茶業者となる前は、このような記事には全く興味が無かったことをふと思いだしました。

茶の販売が最盛期に向かう時代と比べて、飲料のバリエーションは格段に増えて利便性の高い製品も多くなりました。
今は「お茶でなければ」というのはそれを扱う業者くらいで、世間的にはお茶でなければなどという事は無くなったのでしょう。商品を見ていてどれも雑貨然としていてお茶である必要を感じませんが時代としては向いているのかも知れません。でも、見た目が雑貨になれば価格も雑貨の価格となるのは当然です。

大正時代、アメリカにおいてユーカースがお茶の愛好者は年配の人ばかりで若い人達はコーヒーばかりになってしまった。お茶はこの先どうなるのだろうと危惧した文を残していたとの事を聞いています。

お茶が売れた時代は、売る時代の先に生まれました。売れない時代の文字が躍る今、本当に茶業振興を考えるなら「お茶でなければ」を真剣に考えて、お茶を売る事をするしか答えは無いように思えます。

その土地に降った水で育ち、その土地の水を利用して製茶を行い、その土地の水で楽しめる日本茶。その嬉しさや楽しさを共有出来れば「日本茶でなければ」になります。

夢物語のように思えますが、ただの果実酒のひとつがその価値を見出され、ワインとなりました。ワインでなければと思えるように。

商材だけではなく茶を学び、自分の都合ではなく茶についてを考える。それが産地に生きる者の務めです。

2016年福岡催事の日程

2016年福岡催事の日程が決まりました。皆さまの応援ご協力の賜物です。ありがとうございます。

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場所:福岡 岩田屋本店新館6階和食器&ギャラリー
会期:2016年2月10日(水)~2月23日(火)まで。

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今回は企画を更に練り、これまで以上に楽しんで頂けるよう内容の検討に入りました。詳細はまた後日お伝え致します。ご期待ください。

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※写真は秋の催事の様子となります。

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Author:nishikien

日本茶専門店 錦園石部商店 http://www.nishikien.com

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