不変の言葉。モノづくりの現場にて。

常滑にて穴窯からの窯出しに立ち会わせていただきました。穴窯は薪を焚いて焼成を行います。
焼成時の燃えた薪が灰となり火焔と共に胎に接して釉になるのが「自然釉」です。自然釉でなければ生まれない景色は焼物の面白さの原点でもあります。

棚板にくっついてしまわないように置いた土の玉が崩れて隣の品に接したり、転がってしまってドミノ倒しのように壊れてしまったりする事もあります。


そして、何より厄介なのは蓋を乗せて焼成をする急須は蓋が取れなくなるといった他の品には無い大きなリスクを背負っています。 釉となった灰が蓋と胴の間を埋めてしまい、蓋が外れなくなってしまう事もしばしばです。今回も約半分が世に出る事が出来ませんでした。

どれが無事に窯を出るのかわからないから、ひとつも手を抜いて作る訳にはいかないんだよ。と、窯元の言葉。
胴、持ち手、注ぎ口、蓋、茶こしの5つの部品から成る急須。湯呑や徳利を考えれば5つの製品の集合体です。手づくりの細かな茶こしを作る手間は他の4つの部品をつくり組み合わせるのと釣り合うともされます。

壊さざるを得なかった急須を見て、実に切ない気持ちになります。
「コレは蓋が取れそう。」
「もうちょっとか。」
「やった、取れた。」
「ヒビが入ったりしていないか水を入れて確認しよう。」
「大丈夫だね。」
「良かったなあ。」

何故このような手間とリスクを負ってまで穴窯で急須を焼くのか。
常滑だから、ならではの比類ない品をつくり、お客さまに喜んで欲しい。その気持ちが作家の力の源です。
「何遍やっても難しい。本当に勉強だなあ。次はこうすればもっと良くなる。」
モノづくりで忘れてはいけない不変の言葉が今日も耳に届きました。
仕事として関われる事に感謝です。


精緻と偶然が織りなす自然釉の常滑急須。
秋の日本橋三越本店催事にてご覧いただけるかと思います。ご期待ください。
「至福のお茶時間」
常滑焼逸品急須と限定生産静岡茶特別試飲販売会
<場所>
日本橋三越本店5階和食器
<会期>
2015年9月9日(水)~9月22日(火)